第1章 王子、恋を知る。
レオンside……
「万が一彼女が怪しいことをすれば、僕がこの手で処理するよ」
「しかし、父上がそのようなことを許すはずがない」
兄さんはなんとも言えないような表情で僕を見る。
僕だって無謀な提案だと分かっているさ。
今のガロン王に下手なことを言えば、殺されてしまうかもしれない……なんてことくらい。
「一応、聞いてはみるつもり」
飲みかけの紅茶を一瞥して、すっと立ち上がる。
僕の様子を見て、兄さんは溜め息を吐きながら結局付いてきてくれた。
優しい兄さんだ。
途中カミラ姉さんやエリーゼに出くわし、なんやかんやと言われたような気もするが、僕はそんなことよりあの冷たい地下牢から早く彼女を出してやりたかった。
そして何より、明るい場所で彼女を見てみたい。
父さんは、意外にも否定をしなかった。
というよりは、興味が無さそうに思える。
確かに武器も持たないか弱い少女ひとり、ガロン王からすれば他愛ない存在だろう。
ガロン王に礼を述べた僕は、馬を走らせる準備をするため臣下を呼んだ。
少女をなるべく早く出してやりたい一心で、いつもきょうだい皆で赴いている北の城塞に、少し時間が早いがひとりで向かうことにした。
最中、エリーゼには何か楽しいことでもあったのかと付き纏われたが、僕は絶対に口を割らなかった。
嫌でも後で分かることになるんだから。
僕、それから臣下のゼロ、オーディンも馬の支度が整ったので、ついに出馬をしようとした頃。
自分が拾ったからと責任を感じているらしいマークス兄さんも合流し、一緒に行くことになった。
北の城塞は少々冷える。
元より暗夜には春などなく、一年を通して光さえも差さないため肌寒いのだ。
馬の上で、ぼんやりとあの少女が薄着であったことを思い出し、服を買ってやらないとと考える。
どんな服を着せたら似合うだろう。
門番兵によって開かれた門を通り、馬を停めた。
地下牢へと続く道を進みながら、僕の臣下はいったい何用なんだという顔をしているが、全くその通りだ。
少女を捕まえたことすら知らない、ましてやその身元の知れない少女を自分のそばに置こうとしていることなど、いつもの自分で考えれば尋常ではないから。