第1章 王子、恋を知る。
マークスside……
どうもレオンが上の空だ。
もはや恒例のカムイとの手合わせが終わったときも、欠かさないはずの労りの言葉を発さなかった。
どころか、もう手合わせも終わったというのに、先程まで私とカムイが剣を振るっていた場所を一心に見つめている。
いや……きっと、その場所でさえも見えていないであろう。
「レオン、何か考えごと?」
汗を拭いながらカムイが問うも、ぼやっとしたままのレオンは視線を動かしもしない。
「レオン」
私が肩に手を置くことでようやっと意識を取り戻したようで、少々しどろもどろな労りの言葉を貰った。
「悩むことでもあったの?」
カムイが心配そうに再度問うたが、レオンは首を横に振るだけで、何も言わなかった。
どうも少女を見かけたあたりから、彼の様子がおかしい。
その理由は分からずとも、芳しくない傾向であることは確かだ。
日常しっかりと気を抜かない彼のことだ、この様子では幻術か何かを掛けられたのだろう。
今度こそ少女を問い詰め、何者なのかを探らなければなるまい。
「レオン、行くぞ」
カムイやカミラ、エリーゼが自室に戻っていくところで、私はレオンに声を掛けた。
相変わらず薄ぼんやりとしたまま後をついてくるので少し心配になったが、歩調はしっかりしているようで安心だ。
少女の牢に着くと、今までの上の空な様子が嘘のように、彼の背はしゃんとしていた。
やはりおかしい。
「起きろ」
重い鉄の扉を開き声を掛けると、少女はまだ寝ているようで、僅かに身をよじった。