第3章 殺し屋 ダリア
大量の汗を流しながらも
必死に説得を試みる男。
いくら望む⁉︎すぐにでも
用意させようっ‼︎などと
勝手に話を進める。
彼女の顔から笑みが消えた。
「お前の欲に染まりきった
汚いカネを私が欲しがるとでも…⁇』
パンッと乾いた音が一瞬した後、
また静けさが戻る。
ずるずると男が力なく壁伝いに座りこみ
ピクリとも動かなくなったのを横目に
彼女はその場を去った。
辺りを柔らかく照らしていた月がまた雲に隠れ、
町を再び深い闇が覆う。
「旦那様、お客様がお見えです」
「あぁ、すぐに通してくれ」
とある大きな館。
旦那様と呼ばれた男は読んでいた本を閉じ
部屋の入り口に目をやる。
「やぁ、レティ 待ってたよ‼︎
すぐにお茶を用意させる
さ、ここへ座るといい」
男爵は満面の笑みを浮かべ
彼女をソファへと促す。
「レティのために美味しいダージリンを
用意させたんだ
きっと気にいると思うよ‼︎」
『お気遣いありがとうございます
ですが、あまり長居はできませんので
どうぞお構いなく』
楽しげに話しかけてくる男爵に
レティは笑顔で応えた。
「まぁまぁ、そう言わず
…今日という日をどれほど
待ち焦がれたことか…キミには分かるまい」
そう言ってレティのすぐ横へ座り
彼女を見つめる。
「レティ…本当に感謝するよ
キミのおかげで悩みのタネだったものが
この世から消えたんだ
キミに頼んで正解だったよ‼︎噂通りだね」
興奮気味にそう話し
レティの片手をそっと握ると
さらに距離を縮める。
『どんな噂を聞いたのかは知りませんが
私は依頼されたことを実行した…
ただ仕事をこなしただけですわ』
「噂っていうのは仕事の事だけじゃないんだよ」
握っていたレティの手を離し
そのまま彼女の漆黒の髪を
一房すくい取る。