第3章 殺し屋 ダリア
カランッカランッ と
古びた扉に付けられたベルが鳴る。
大きな蓄音機から流れるジャズと
薄暗い照明の中、
席に座り談笑する客達の横を通り
奥へ奥へと進んだ。
隠し部屋とも取れそうな小部屋に入り、
ハットをかぶり葉巻の煙を燻らせながら
座る男を見ると、彼女は何も言わず
テーブルを挟んだ向かい側の席に座った。
「葉巻は苦手って…前にも言ったわよね⁇
私と会う時くらいやめてもらえると
ありがたいのだけど』
レティが眉間にシワを寄せながら言うが
男はニヤリと笑って尚も煙を燻らせる。
「まぁそう言わず、美人と会うとなると
どうも落ち着かなくてね。
つい吸いたくなるのさ」
カサ…と厚みのある封筒が卓上に置かれる。
幾重にも重ねられた紙幣が
封筒の口からチラリと見えた。
「相変わらず仕事が早いな。
今回ばかりは時間がかかるだろうと
思っていたが…おまえにとっては
朝飯前ってところか」
『随分と甘く見られたものね。
それに、知ってて依頼してきたくせに
その言い方はないんじゃない⁇』
レティはムスッとした顔で言いながら
卓上に置かれた"報酬"を手に取り
中を軽く確認してから身につけている
赤いバッグに納めた。
「おや、今日はなんだかご機嫌斜めだな。
ターゲットに嫌味な事でも言われたか」
『私が気に入らないのはターゲットじゃなく
あなたよ。なによ今回の依頼、始末した2人とも
ほぼあなたとは無関係じゃない』
「無関係じゃないさ、邪魔だったのは確かだ。
現に、始末してくれたおかげで流れは
良い方向へ向かっている。これでも感謝
してるつもりだ」
『私にはそう思えないわね。
1人目はただの変態オヤジだったけど…
2人目なんてどう見ても私への執着が強い
ストーカー男じゃない』
レティは食いつく様に言い放つが、
男はどこか楽しそうに聞いている。