第6章 荒北の番犬は荒北
ぺちっ。
部室に響く可愛い音。
口元に名チャンの掌。
「俺に手あげるなんざ、さすがだなぁ」
そう言うと名チャンは固まってしまった。
入部するとなった時、名チャンの匂いは嗅がなくてもすぐ辞めそうだった。
よく分かってないロードの世界、宮田にしごかれているのを見て、さらにそう思った。だが、
ガチャン!
ある日、部員の誰かが他の部員のバイクを倒してもたついている時、優しく注意しているようで確実に怒っていたのを見て大丈夫だと思えた。他の部員もそうだろう。
同じ名前なんて珍しいから、名チャンの存在は前々から知っていた。けれど東堂がちょっかいをださなければこんな風に話すことはまずなかった。
俺と真逆で大人しそうなくせに夢中になるもんには夢中になる。
俺のせいで面倒くさい奴等に絡まれて迷惑かけてるのも、最近落ち着いた噂もまた復活してるのも知っている。
だから、一撃受けてやった。
つか、ぺちってなんだよ!もっとこう、黒田みたくくりゃいいもんを!
「俺に手あげたんだ」
頬にある名チャンの手をとり
「さすがじゃねーの」
と笑えば、後ろでは固まった名チャンが面白いのか新開がにやつき、俺も俺で楽しくなり
「俺に手あげたんだ。覚悟はできてんだろうなぁ?」
そうきくと
「か、か、かか覚悟って・・・?」
と、まるで怯えた小鹿だ。
「決まってんだろーが!最後までメンテとして俺らについてくんだよ!!」
そう名チャンの手を振り払うと、名チャンの顔つきはみるみる変わり、それでも恐る恐る
「お、おぅ」
と言った。それを聞いて様子を伺ってた福チャンは準備に戻り、新開も少し間抜けな顔をしていた。
「言ったな?言ったからにはついてこいよ名チャン」
「おぅ!」
と今度は元気に返してくるもんだから可笑しくなって、名チャンを置いて部活の仕度を始める。
「珍しく格好つけじゃん靖友」
「つけてねーよ!」
その日、すっきりした顔つきの名チャンが妙に脳裏に残り、ふと
(マジでついてくる奴の臭いだ)
と、ローラーを回していた最中に笑みがこぼれる。
長い付き合いになりそうだ。
そう感じた日だった。