第1章 梅の花 嫉妬の謳(秀吉誕生祝い2017)
夜まで続いた宴は、亥の刻ごろ、
ようやく終わった。
湯浴みを終えた美蘭は、
安土城の自分の部屋で髪を梳かしていた。
「………疲れた。」
思わず漏れた言葉。
慣れない豪華な着物を着て、織田家のお姫様として恥じない行動を…と長時間気を張り巡らせていたのはもとより、
秀吉と自分の関係は何なのだろうか?と
考えさせられることの連続だった。
気持ちが通じ合えたと、喜んでいたのだが
この戦国時代において、
それだけでは
何の道標にもならないのだということを
思い知ったのだった。
正室に迎えるつもりはない
…と、言われたら
それは
秀吉さんが他の女の人を正室に…
奥さんに迎えるつもりだということ。
例えわたしのことも愛してくれたとしても
他の女の人のもとに帰って行ってしまうなんて
(……わたしにはとても耐えられそうにない。)
そうと決まったわけでもないのに
考えただけで、
美蘭の胸は締め付けられた。
すると
シュッ。と背中の障子が開いた。
「…!」
現実に引き戻された美蘭が
ゆっくりと部屋の入り口を振り返ると、
「…秀吉さん…。」
そこには
秀吉が立っていた。
「………。」
いつもなら、必ず廊下で一声掛けて、中からの返事を聞いてから部屋に入る几帳面な秀吉が、無言で部屋に入って来た。
それだけでも緊張するには十分だ。
そのうえ
何か思いつめたような表情は、
ただでさえ不安に苛まれていた美蘭の心を、更に不安にさせた。
「…遅くまでお疲れ様でした。」
だが美蘭は、いつも以上に疲れたであろう愛しい人を迎えようと、
ゆっくり立ち上がると、
笑顔を作り、立ち尽くす秀吉に歩み寄る。
「素晴らしいお誕生日の宴でしたね。」
無言のピンと張り詰めた空気が耐えられず、
いつもと違う秀吉に気づかない振りをして、努めて明るく話しかけながら秀吉の目の前までやってきた。
瞬間
寝衣の肩口が乱れるほど強く腕を引き寄せられ、
強引に口づけられた。