第1章 梅の花 嫉妬の謳(秀吉誕生祝い2017)
「美蘭、お前こんな小さな虫が怖いのか?」
政宗が、面白いものをみつけた子どものように
嬉々とした顔で問いかける。
かなり虫が苦手らしく、
家康の胸元に頭を擦り付けるように、
うんうんと頭を振り
必死に伝えようとする美蘭。
美蘭にすり寄られる家康を
羨ましく思った政宗が、
「あ!家康の肩に尺取虫!」
家康に虫などついていないのにそう叫ぶと
「ええっ??!嫌っ…!!!」
単純な美蘭は簡単に騙され、
尺取虫から逃れるため、
今度は政宗の胸に飛び込んだ。
「ちょっと政宗さん…姑息な真似止めてくれません?」
「姑息だろうが欲しいモンは手に入れたモン勝ちだ。」
言い合う家康と政宗の間で
「もういないんですか?本当に???」
美蘭は怯えた表情で必死に助けを求めている。
その姿はあまりに可愛いらしく
周囲の男たちは皆、釘付けになっていた。
「いやはや、織田家のお姫様は可愛らしいお方ですな。」
隣の敷物で、連歌を楽しむ武将達も
美蘭を話題にし始めた。
「是非お側でお守りしたいものだのう。」
「貴殿の側ほど危ない場所もなかろうて!」
「違いない!」
酒の席らしく、少々下世話な方向に
話がすすむ様子は、秀吉を不機嫌にさせた。
「おい。戯れが過ぎるぞ。」
ぴしゃりと言い放った秀吉であったが
続く言葉に、心を乱された。
「しかし…姫様が信長様の寵愛を受けておられる
のは誠のようでありますな。」
「…?!」
「おお、わしもそう思ったぞ。」
「織田家の家紋入りの懐剣を差しておられたからな。」
「信長様がお授けになられたのじゃろうて。」
信長様があの懐剣を美蘭に与えただと?
織田家には、
代々婚儀の際に使用される懐剣があった。
年配の武将によれば、
間違いなくその懐剣であったという。
秀吉と美蘭は最近心を通わせたが、美蘭を「俺のものだ」と公言している信長から正式に譲り受けた訳ではない。
しかも
信長が、自分でも気づいていないかも知れないが美蘭を1人の女として大切に思い始めていることに気づいている秀吉の胸は、ドクン!…と波うった。
「そうであろう?秀吉殿。」
(御館様はどんなおつもりなのだ?)