第1章 梅の花 嫉妬の謳(秀吉誕生祝い2017)
立派な武将でありながら
誰にでも優しくて面倒見の良い秀吉さん。
わたしがあっけなく恋に落ちてしまったように
誰からも愛されている。
一緒に出掛ければ、
秀吉さんの周りはいつも人だかり。
今日も結局そうで、しかも城下よりも
繋がりの深そうな間柄の人たちばっかりで…
いくら着飾らせてもらっているとは言え、
500年前から突然やってきたわたしの
疎外感は半端ない。
視界の端で、
秀吉さんの行動を逐一気にしているくせに
知らんぷりを決め込むしかない自分。
ヤキモチなんて子どもっぽい感情が溢れて
なんだか自信がなくなって、
気持ちが沈みかけてしまったけど
梅の花に悪い気がして、
せっかくのこの日を楽しまなくちゃ。
…って思った。
そんなわたしを救ってくれたのは、
政宗の美味しいお弁当。
美味しいお料理を食べて、楽しい話をして、
楽しい気分になれたんだけど…。
「正室…。」
歴史オンチなわたしでも、昔の人が、
奥さん以外にもたくさんの女の人を
囲っていた事くらい知ってる。
そしてそれが、
戦国時代である、今現在の、常識なのだ。
少し前に秀吉さんと気持ちが通じあったけど、
500年後の世界なら、
それは自分が大切な人にとっても
たった1人の特別になれたってことになるのに
この戦国時代では
秀吉さんが、わたしをどう思っているか
それは
言い渡されるまでわからないのだ。
(…わたしが思うほど、秀吉さんはわたしを思ってくれているかわからないんだ…。)
言いようのない不安が、
美蘭の心の中を支配した。
しゅん…と肩を落とした美蘭。
その目の前に
…ポトリ!
何かが落ちてきた。
「……ッ!!!」
それは
小さな尺取虫であった。
「き…きゃあああッ!」
虫が大の苦手である美蘭は、
隣に座っている家康に飛びついた。
「…美蘭?!どうしたの?」
柔らかい美蘭の感触と甘い香りに抱きつかれ
少し頬を染めた家康が、
自分に抱きついてきた美蘭を
嬉しそうに抱きしめかえした。
「む…虫が…っ…!!!」
震える指が指し示す先にいたのは、
小さな尺取虫。
百戦錬磨の武将達は、大笑いした。