第4章 恋知りの謳【謙信】
「ほらよ。」
美蘭が自室の前の縁側に腰かけて、葉桜を眺めながら針仕事をしていると、
ドカドカと大きな足音をたててやってきた幸村が、美蘭の隣に腰を下ろし、持ってきた包みを、座る2人の間にドン!と置いた。
「……お団子…?」
「コレが何に見えんだよ?」
それは、佐助と幸村と美蘭が、3人でこっそりお茶をするときにいつも食べている、定番の団子の包みに間違いなかった。
「買ってきてくれたの?」
「か…感違いすんなよな!団子屋がオマケとか言って大量に寄越しやがったんだ。こんな食えるかってんだよ。」
きっと多めに買ったらさらにオマケされてしまったのだろう。
その光景が容易に想像できて、美蘭は吹き出した。
「…っぷ!あの団子屋さんの女の子、きっと幸村が好きなんだよ。」
「はあ?!好き??意味わかんねェこと言うんじゃネェ!」
佐助と幸村と城下に行った際には、直接足も運ぶ団子屋。
そこの看板娘と言われている女の子は幸村が行くととても嬉しそうで、また、一緒にいる美蘭に対しては複雑そうな視線を向けてくる。
間違いなく、あれは恋している女の子の目だ。
「意味わかるよ。だってあの子いつも幸村が行くと、……!」
恋…
好きな人が気になって…
好きな人に関わる女の人が気になって…
ドクリと、美蘭の胸が音を立てた。
団子屋の女の子が幸村を見つめる視線に込められた想いと、自分の謙信への想いは、
「……同じ…。」
自分は
謙信に恋しているのだと
気づいてしまった。
「…?なんだよ?変なとこで話し止めんじゃネェよ。」
「…あ、ごめん…ね?お茶、入れるね!」
(人質のくせに…)
陣営も違う上、謙信は一国一城の主。
自分は、織田家ゆかりの姫なんてことになっているが、本当はただの未来人。
身分や立場があまりにかけ離れている上、
いつもとの世界に引き戻されるかもわからない。
考えれば考えるほど
見当違いの恋だと思い知るだけ。
なのに
(謙信様に…会いたい…。)
泣き出したい気持ちを必死に飲み込んで、
優しい甘さの団子を頬張った。