第4章 恋知りの謳【謙信】
あの夜から数日。
美蘭は、謙信に会えない日々を過ごしていた。
(……お忙しいのかな。)
肌を重ねた記憶が生々しく、
思い出しただけで身体に熱が灯ってしまう。
だが、それに反して、
心は揺れていた。
距離が縮まったように思えていた謙信との距離。
一緒にいると安心するし、嬉しいし、楽しい。
それはきっと謙信も同じように感じてくれているように思えた。
さらにいつしか
楽しいだけでなく胸が熱くなる感情が生まれた。
謙信の隣にいるだけで体温が上がるような、
熱い感情。
あの夜
繋いだ手から、
交わした口付けから、
繋がった身体から、
謙信のあの色違いの瞳から、
同じ想いを感じたような気がしたのだが
(……何を言われた訳じゃない。)
またうなされていないだろうかと、
夜中に忍び謙信の部屋の廊下まで行ってみたこともあるが、
あの夜以降、
苦しそうな声は聞こえない。
謙信が安らかな眠りにつけていることに、
例え夢でもあのお姫様に会っていないだろうことに、
少し安心しはしたのであるが
あのように情熱的な夜の後、1度も姿すら見ることも叶わないこの状況は、美蘭にとってとても辛いものだった。
美蘭にとっては大きな出来事であったのだが、
謙信にとっては、
取るに足らない出来事であったのだろうか?
伊勢姫という女の人は、
謙信にとってどんな存在の女の人なのだろうか?
(…謙信様に…会いたい…。)
美蘭は、
(謙信様にとってわたしはいったい…。)
謙信のことばかり考えてしまっていた。