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【イケメン戦国】恋花謳〜コイハナウタ〜

第4章 恋知りの謳【謙信】


「……くな……っ。」


苦しそうな謙信は、尚もうなされ続ける。


(…行くな?…って言ってる?)




冷静沈着な軍神とまで呼ばれる鉄壁の心を持つ謙信が、


こんなふうに取り乱して別れを拒む女の人。


それはきっと、


謙信の大切な存在なのだろう。





絶望にも似た感覚が、

美蘭の胸に鉛のような重い何かをズシリとのしかからせた。






だが、美蘭の記憶の限りでは、春日山に、それらしき女の人はいないし、


謙信は、近頃自分と行動を共にしているだけで好奇の視線に晒されるほどに女嫌いと言われている。





(過去の記憶…なのかな?)





謙信を夜な夜な苦しめているものの正体は、


夢ではなく


過去の記憶なのではないか?


今現在の悩みや悲しみでないことを願ってしまう美蘭。






「…わたしは…ここに居ます…。」

美蘭は、褥からはみ出していた謙信の手を握った。

「謙信様…。」

握った手に、更にもう一方の手を重ね

どうか、苦しまないで欲しい…という思いを込めて、

握っている両手にギュッと力を込めた。




すると



「…っ。」

手の感触を感じたらしい謙信が、



「…美蘭…か?」

目を覚ました。



「…はい。」

美蘭は謙信が眠りから解放されたのに安堵して、

自分の名が呼ばれたことも嬉しくて、

握る手に、また力を込めた。



「おまえの心の臓は…動いているか?」

まだ夢に浮かされているような少し定まらない瞳で、謙信は美蘭に尋ねた。


「…?…はい。動いています。」

そう答えると


「俺に聞かせてくれ。」

左右色違いの瞳は、美蘭を見上げた。


「…え?」

「おまえが生きている音を…この耳で確かめさせろ。」

「…っ…きゃ…っ…?!」

繋いでいる 美蘭の手を謙信の強い力でグイと引き寄せられ、

美蘭は、謙信の褥の中に引き込まれた。



そして謙信は、

流れるような動きで自分の横に仰向けた美蘭を抑え込み、胸元に耳を寄せた。

「…謙信…様…っ?」

「…聞こえたぞ。」

「……っ。」


そう言う謙信の声があまりにも穏やかで。

美蘭は、身体の力を抜いた。

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