第4章 恋知りの謳【謙信】
それからというもの、
美蘭は、頻繁に謙信とともに草原に出かけた。
うさぎたちと、謙信と、
楽しい時を過ごし、笑い、
春日山城では今まで通り過ごした。
「あ…美蘭さん。…と、謙信様。」
「また2人でどっか行ってきたのかよ。最近よく一緒にいるよな。」
「………。」
領内の偵察から戻った信玄、幸村、佐助。
城の門が見える場所を歩いていると、3人には気づかず、謙信と美蘭が先に門をくぐるのが見えた。
「俺の天女は、いるかな?」
夕刻、信玄は美蘭の部屋を訪ねた。
訪れずには、いられなかった。
「信玄様…。」
美蘭の顔は、また憂いを含んだ表情だ。
「何の御用ですか?」
「重要で大切な用事があって来たんだ。」
信玄の言葉に、織田軍との間に何かあったのか…と身体を強張らせた美蘭。
「そんなに警戒されたら悲しくなるな。愛しい天女が気になって仕事が手につかなくなってね。心の栄養補給にやってきたんだ。」
「…っ。またそういう冗談を…。」
顔を赤らめながら、少し怒った顔でそういう美蘭の姿に、胸がぞわぞわと栗立った。
…冗談ではなかった。
信玄は、無性に美蘭に会いたくなって、部屋を訪れたのだった。
理由は信玄自身にもわからなかった。
…いや、
本当はわかっているのだが、認めてはならない。
そんな想いに突き動かされたのだ。
憎き織田軍の武将共が大切にしている姫がいると聞き、戦の駒に使えると考えた。
攫ってみれば、愛らしい見かけはもとより、そのまっすぐで美しい心根に、いつのまにか引き込まれてしまった。
はじめは人質の監視のつもりだった。
だが、いつからか、会うのが楽しみとなった。
だが何度通っても、どれだけ甘い言葉を囁いても、美蘭は自分に笑顔を見せない。
かたくなに閉じられた心を開くことができない。
それなのに…。
近頃美蘭は、謙信と打ち解けた様子。
先ほど見た、一緒にいるのが自然なような2人の様子に、信玄は喉がカラカラになるような不快感と焦燥感を感じた。
「ほら…その可愛いらしい顔をよく見せてくれ。」
信玄は、美蘭の顎に手をかけた。