第4章 恋知りの謳【謙信】
3羽のうさぎたちは、鼻をひくひくさせながら、謙信のあぐらの中で満足気な顔をしている。
周りでは、他のうさぎたちもピョコピョコと跳ねているのだが、
表情は崩さないが、優しくうさぎたちを撫でる謙信と、そうされるのが嬉しそうなうさぎたち。
その信頼関係のようなものが羨ましいような、微笑ましいような…不思議な感情に包まれた美蘭。
「うふふ。このコたち、大好きな謙信様に抱っこしてもらって…うっとりしてますね♡」
謙信のあぐらの中のうさぎを撫でながら、ふと顔を上げると、
「…っ!」
美蘭は、
予想外に近くにあった謙信の顔に驚いた。
そして
美しく整った顔から放たれる、
ゆるぎない視線に、胸がドキドキと高鳴った。
「…やっと、笑顔を見せたな。」
「…!」
美蘭は、
謙信に言われて、自分が久し振りに、思い切り笑えたことに気づいた。
「そんなに安土が恋しいか。春日山は…嫌いか?」
「そんなこと!…ないです。」
「なら何故…いつもあのように曇った顔でいるのだ。」
謙信は、切なそうに目を細めた。
「それは…本当は、笑いたいんですけど。笑ってしまったら…信玄様に口付けされてしまいますし…。」
謙信の目をそのまま見つめていたら、自分が自分ではなくなってしまいそうで。
美蘭は、ドキドキする胸を落ち着かせたくて謙信から目を逸らした。
「…ふ。連れ去られて来たというのに…春日山は気に入っておるのか。」
「ふふ。人質なのにおかしいですよね。でも、皆さんが好きです。」
美蘭はうさぎを撫でながら、話を続ける。
「わたしの立場は織田の人質です。でも皆さんと話して…安土の皆さんも、春日山の皆さんも…それぞれの事情や信念の為に戦っていることがわかりました。」
謙信は、黙ってその話を聞いた。
「生まれた場所や立場が違ったら、手を取り合えたかも知れない。そう思ったらわたしは…どちらの味方も出来なくなってしまいました。」
「おまえは…甘ったるいな。」
この乱世に、いったい何を言っているのか。
だが、美蘭が言うと
敵も味方もない、そんな世界があるような気がしてしまう。
(安土の武将どもが、大切に思うのもわかる気がするな。)