第4章 恋知りの謳【謙信】
その後も美蘭は、春日山で静かに日々を過ごしていた。
人当たりの良い素直な性格は女中にも評判が良く
初めは織田軍の人質であると毛嫌いしていた家臣たちでさえ、心を開き始めていた。
信玄が織田軍を消耗させるために度々行っている戦に連れて行かれた時には、1度逃げ出そうとしたらしかったが、それ以来、大人しく同行しているらしい。
信玄が、
逃げ出そうとして矢面に立った美蘭を庇い、負った傷をいつまでも引きあいに出して美蘭に取り入ろうとしている様子には、甚だイライラを感じる謙信であったが、
人質だという立場でありながら
日々を懸命に過ごしている美蘭には、
一目置いていた。
だが、
やはり笑顔の中の憂いは消えることはなかった。
謙信は、
そんな美蘭が何故か気になって仕方なかった。
その憂いは、悲しみに変わってしまわぬか?
その憂いは、絶望に変わってしまわぬか?
かつて守ってやることができなかった伊勢姫のような悲劇にならぬように、見守っていた。
そしていつしか
謙信は、
信玄のように賭けをしている訳でもないというのに、美蘭の本当の笑顔を見たいと思うようになっていたのだった。