第4章 恋知りの謳【謙信】
その後も、謙信はよくうなされた。
そしてうなされる度、
目覚めるといつも、隣には美蘭がいた。
初めは寝覚めが悪かったこの夢も
繰り返すうちに、
美蘭の温もりに安心して、
穏やかに目覚められるようになっていった。
「酌をしろ。美蘭。」
「あ…はい。」
中庭で花見と称して昼餉をとっていた武将たち。
通りがかった美蘭に、謙信が声をかけた。
「…どうぞ。」
「……ん。」
女が空いた杯に酌をした
…それだけのことなのだが。
武将たちは目を丸くして、その光景を凝視した。
「謙信様。いつの間に、美蘭さんとそんなに仲良しになったんですか?」
謙信が女と関わりを持つこと自体が稀有である。
佐助は素直な感想を述べた。
「何を言っている。仲など良くない。酌をさせただけだ。」
(それが珍しいんだけど…。)
…と、心の中で思った佐助と幸村。
「俺の天女だぞ?他の男との距離が縮まるなんて…耐えられないな。」
信玄はそう言いながら、
美蘭の髪を1束掴むと、その髪に…ちゅ…と口付けた。
「や…止めてください…っ!」
美蘭は恥ずかしそうに顔をしかめると、すぐに立ち上がり、その場を去って行った。
謙信は、
ほのかに頬を染めた美蘭に、
胸がざわめいた。
だが、
信玄を避けるように立ち去ったのを見たら、
気分が晴れ晴れとした。
(いったい何なのだ…。あの女は…。)
謙信は、
説明のつかない感情が胸に渦巻いているのを感じながら、
美蘭が立ち去った方角をずっと見つめたまま、
コクリと酒を飲み干した。