第1章 梅の花 嫉妬の謳(秀吉誕生祝い2017)
毎年、秀吉の誕生日には、
それは沢山の人々が
祝いの言葉や品物を贈ってくれるのだが、
自分の都合で城に人が押し寄せるのも
警護上いかがなものか…と
ここ何年かは、用心棒を連れ城下にでて
自ら祝いを受けていた。
だから、
例年誕生日に城下の人々のように
秀吉に会えない大名や高貴な家柄の子女たちが
今年こそは!と、意気込んで、
我先にとこぞってやって来ていた。
「秀吉様のために取寄せた羽織ですわ。」
「わざわざ、ありがとうな。」
「これが先日申し上げました当家の1人娘でございまして…」
「これは貴殿によく似て聡明そうな娘さんだ。」
秀吉は、1人1人丁寧に対応しながら、
内心は今すぐにでも終わらせたいと思っていた。
(なんとも無礼な男だな。…俺は…。)
いろいろな思惑あれど、
自分のためにこれだけの宴を設けてもらい
これだけの人々が会いに来てくれた
…なんと有り難いことか。
(なのに俺は…。)
宴の上座たる、最も立派な枝ぶりの梅の木の隣は
高床に施され、畳も敷き詰められている。
当然の如く信長がそこに座し、
その隣には美蘭が座している。
いつもより上質な着物を来て
薄化粧をして髪を美しく結い上げている美蘭。
いつもよりも色香を放つその姿は
誰にも見せたくないほどに美しかった。
宴の主役として、
最初から人々に囲まれ通しの秀吉は
そんな姿を褒めてやることすら叶わず
横目に覗き見ることしかできない。
(織田家ゆかりの姫…としているのだから当然なのだが。)
美蘭を憎からず思っている信長のすぐ隣に
いつもより美しい美蘭が
座っているだけでも胸が焦がれるというのに。
大名たちから次々挨拶を受けて、
お美しい…などと褒められたのであろう、
時折頬を染めたりしている姿が可愛らし過ぎて
(俺以外にそんな顔を見せるな…。)
秀吉の胸は、
ギリギリと何かに締めつけられるようだった。
「つまらん宴かと思いきや…じつに愉快だな。」
上座のすぐ隣の敷物で酒を飲んでいた光秀は、
秀吉の内心を読み取って、ほくそ笑んだ。
「まだ美蘭は、こっちに来れないのかよ。」
「これる訳ないでしょ。」
政宗と家康は、つまらなそうに酒を飲みながら美蘭の動向を見守っていた。