第2章 連なる愛の謳【家康・政宗】
安土城の中にある自分の部屋の文机で、書簡の整理をしていた家康。
その作業は、捗っていなかった。
(政宗さんのあんな必死な顔…初めて見たな。)
政宗も美蘭を気に入っていることなど、だいぶ前からわかってはいたのだが、
あんな風に必死になるほど本気だったとは…
(気をつけないとね…。)
恋敵の本気度に触れ、気が引きしまった。
その時
家康は、にわかに城の中が騒がしくなったことに気付いた。
(……?)
廊下を、こちらに向かってズカズカと歩いてくる不躾な大きな足音が鳴り響く。
(あの足音は政宗さん…!)
昼餉前に美蘭を連れて出かけて行った政宗。
自分から美蘭を奪い去るように連れ去り、2人の時間を楽しんでいるはずの政宗が
慌てて自分を訪ねてくるとなれば
(何かあった?まさか美蘭じゃ…!)
嫌な予感がした家康は、
急いで立ち上がり部屋の襖を開けた。
「…!!」
するとその直後、
美蘭を横抱きにした政宗が、断りもなしに部屋になだれ込んで来た。
「どうしたんですか?」
「美蘭が怪我した。…診てくれ!」
そっと畳の上に降ろされた美蘭。
「いったい何が…」
見た目には大きな怪我などはしていないようなのだが…
「…こっちだ。」
政宗が美蘭の肩を押さえて、美蘭の身体を反転させると
着物の足の付け根部分に血が滲んでいた。
「…!政宗さん!あんたがついてて何やってたの?!」
美蘭が傷ついたと知った瞬間頭に血が上った家康は、美蘭に駆け寄り自分の方に引き寄せると、政宗を責め立てるように大きな声を出した。
「……悪かった。」
「……。」
すると
政宗と美蘭の間に流れた、妙なよそよそしい空気。
「………。」
(何かあったんだ。この人たち。)
大切な美蘭が怪我をしたことへの心配と、
側にいながら怪我をさせた政宗への怒りと、
2人にいったい何があったのか…と思う焦燥。
全ての感情が入り混じった家康は、一気に不機嫌になった。