第22章 第21章 恋知りの謌【謙信】湯治編 〜車輪〜 ③
しばらくの間
謙信が、
髪に、こめかみに、耳に、頬に、
自分はここにいると伝えるように繰り返し口付けを落としていると
「…謙…信…さま…?」
美蘭の意識が、
ようやく暗闇から抜け出した。
「…よくぞ戻った。」
謙信は振り絞るように呟いた。
その淡々と聞こえる言葉は、
頬を包み込む両手は
震えていた。
「わたし……帰って来れたんですね…っ…。」
自然に溢れ流れ出る涙を気にかける余裕もなく
美蘭は、自分を見つめている謙信の顔を見つめ視線を絡ませながら、頬を包んでくれている大きな手のひらに自分の手のひらを重ね、愛しい人の体温を確かめた。
「この俺にこのような心配をかけるとは…困った女だ…。」
「こめんなさ…っ…チュ…んう…っ」
美蘭の謝罪の言葉は、口付けに妨げられた。
だが溢れる想いを伝えたくて話続ける美蘭。
「でも…帰れて…良かった…っ…チュ…は…っ」
だが、また、唇を優しく奪われ、妨げられる。
絡み合う足と、唇から身体に熱が広がった。
「…っ…もう良い…チュ…」
謙信の余裕のない呼吸が、
更に美蘭の身体の熱を上げさせる。
「よく…ありません!」
今度は口付けに言葉を妨げられぬように、謙信の胸を押し身体を少し離すと、
僅かに色違いの瞳を見開き驚いた表情の謙信に向かって、美蘭は話し続けた。
「死ぬとか…そんなことより…謙信様に会えなくなって…また謙信様が悲しい顔をされたらと思ったら…」
「…っ。」
「わたしのせいで謙信様にそんな思いさせたくないから死にたくないって思ったんです…でも…このまま死んじゃうかもって気もして…わたし…っ。」
この目の前の、
自分の腕の中に容易に収まる華奢な女は、
自分の命が尽きるかもしれない瞬間も、
自分のことを後回しにしていたのか?
「まったく…おまえは…っ」
なんと愛しい女なのだ…
謙信は、
溢れ出るあまりの恋情を表現する言葉を見つけることが出来ず、
ただ、
ぎゅっと、抱き締めた。