第22章 第21章 恋知りの謌【謙信】湯治編 〜車輪〜 ③
(閉じ込めておけば良かったのか…?)
褥の上に寝かせた美蘭の頭を愛しげに撫でながら、
誰の目にも触れぬように外に出さずにいれば、こんな痛々しい姿にさせずにいられたのだろうか…と、謙信は自問自答した。
だが、そこで脳裏に浮かんだのは、
自分が美蘭を連れ出して周囲に祝福される喜びを知ったと話した時の、美蘭の嬉しそうな顔であった。
(…っ。戦の最中でも迷いなど感じたことのないこの俺が…。)
どうすることが、愛する女を幸せにすることなのか…と悩み胸を痛めた謙信は顔を歪め、
同時に溢れて止まらない愛しさに操られるように、まだ目を覚まさぬ恋人の頬を、指で壊れ物を扱うように優しく撫でた。
「……っ…。」
すると、美蘭が目を覚ました。
強い毒を持つ白蛇に噛まれ衰弱していた美蘭は、手当てして日暮れ前に離れに連れ帰ってから、真夜中過ぎの今の今まで気を失うように眠ったままだったため、心労が限界に達していた謙信は、珍しく大きな声をあげた。
「…!美蘭!!!」
そして、本当に目が覚めたのかを確かめるように、震える両手で青白い恋人の頬を包んだ。
まだ視界がおぼつかない様子の美蘭。
「…医者を呼びに…っ」
すぐに医者に容態を診せようと立ち上がりかけた謙信は
袴が弱々しく捕まれたことに気づき
「…?!」
動きを止め振り返った。
「…や…っ…。いや……ッ!」
「美蘭?!」
謙信が見たのは、
ボロボロと涙を流し、何かに怯えている美蘭の姿だった。
「いや…死にたくな…っ…謙信様と…離れ離れになっちゃ…っ」
「……!」
まだ意識が混濁して、夢と現実の区別がつかないのだろうか。
だが、その叫びは、美蘭の自分に向ける現実の想い。
自分とて今最も恐れているのは、この目の前の愛しい女との別離。
美蘭は気を失う前、
恐らく死に誘われる感覚に怯えたのだろう。
…それがどんなに恐ろしく悲しい感情であったことか。
考えただけで、胸が張り裂けそうになった謙信は、美蘭の身体に負担をかけないよう、自分が寝転がり、愛しい恋人を抱き締め
「離れ離れになど…ならぬ…。」
言い聞かせるように耳元に呟き、そのまま頬に口付けた。