第21章 恋知りの謌【謙信】湯治編 〜車輪〜 ②
「まーったくおまえは。春日山でも床掃除までしてるのか?」
秀吉は、深刻な状況を美蘭に気取られぬように、努めて明るく会話を続けてきたが
「……う…ん…。」
「…??」
ここに来て、美蘭の反応が鈍くなってきたのに気づいた。
木々が開け、
小さな草原が広がる場所まで来ると、
「…少し休むぞ?」
秀吉は腰を下ろし美蘭を背中から下ろした。
すると美蘭は、
秀吉の背中から滑り落ちるように草原に腰を下ろした。
…いや、落ちたような気さえした。
様子がおかしいと思い、振り返り、今まで背負っていた美蘭の様子を見た秀吉は
「…!!!…真っ青じゃないか!」
美蘭の衰弱した様子に、自分も顔を青くした。
白蛇に噛まれた首は腫れ上がり、
その可愛らしい顔には痛みに耐えるような苦痛が走り、
ジワリと汗をかきながら小刻みに震えている美蘭。
「寒…いよ…。…秀吉、さん…っ。」
秀吉に訴えるような視線を向けて来る美蘭。
秀吉は急いで羽織を脱ぐと、
震えるか細い肩にそれをふわりと掛け
「狼煙を上げてくるからな?少し待ってろよ?」
言い聞かせるように言った。
小鳥の雛のように、完全に秀吉を頼り切っている不安げな瞳の美蘭は、肩に掛けられた羽織をぎゅっと握り締めながら、コクリと頷いた。
(…毒が回ってきたか…。)
こんな時だからこそ、自分たちを探してくれているであろう仲間たちと、一刻も早く合流せねばならない。
そのためには
止まるならば、見つけてもらえるように狼煙を上げねばならない。
秀吉は、美蘭に神経を向けながら動き回り、
草原の中でも草がほとんど生えていない場所を探して、
願いを込めて狼煙を上げた。
(…頼む……早く見つけてくれ…!)
そのとき視界の片隅で、
美蘭が座ったまま、フラついたのが見えた。
「…美蘭!」
秀吉は弾けるように駆け寄ると
「……っ…。」
羽織ごと、
美蘭を抱き締めた。