第21章 恋知りの謌【謙信】湯治編 〜車輪〜 ②
「信長様宛の文だと?」
光秀が、織田の離れに飛び込んで来た吹田の家臣に聞き返した。
「はい。念のため崖の方から捜索している部隊の者が、斜面に落ちていたのを見つけてまいりました。」
「いったい誰からの文なんだ?」
政宗が聞くと
「上杉謙信殿からの文で御座います。」
「謙信だと???」
政宗のみならず、広間にいた武将全員が息を飲んだ。
事情により肩を寄せ合っているが、これは仮の状況。
敵対している将から将への文と聞けば、其の内容や如何に?と、誰もが背筋を伸ばし、緊張した。
「能書きは良い。早くそれを見せろ。」
信長の低音に
今日は条件反射で信長のために動き回る秀吉が不在なのだと光秀が気づき、
吹田の家臣から文を受け取り、信長に急ぎ手渡す役目を引き受けた。
誰もが固唾を飲んで見守る中、
信長は文を開き、目を通した。
暫くすると、信長は
「 『おまえたちにとって美蘭が、本当に幸運を呼ぶ女として宝のように大切であると申すなら、明日の上杉の宴に参上して祝福を述べ、おまえたちへの後ろめたさは不用であると美蘭に名言せよ』 ……だと?」
文の内容を読み上げると
高らかに笑った。
「龍め。安土を想って美蘭の顔が曇るのが堪らぬか!」
するとそれを聞いた信玄が
甘味を味わっているのを中断して、呟いた。
「曇るならばまだマシだ。謙信は、心の曇りを見せようとしない天女を心配しているんだろう。」
「くく…。だがこうして文を書かれているということは、心の内を見せぬよう必死に隠そうとしたものの、それが叶わず見通された…という話か?相変わらず単純明解な女のままだな。」
光秀が、喉を鳴らし笑った。
「面白れぇ。祝福を述べるかはともかく、上杉にいて美蘭が幸せになれるのか見極めに行こうじゃねぇか!」
政宗が、ギラリ目を光らせ笑うと
「とんでもねーもん見せつけられるから、覚悟したほうがいいゼ。」
この湯治場に来てから、2人のいちゃちゃを嫌という程見せつけられ続けている幸村が、ため息まじりに言った。
信長は、武将たちの会話を聞きながら
「宴とやらにに招かれてやろうではないか。…無事に帰れよ。美蘭。秀吉。」
そう言って、フンと鼻を鳴らした。