第16章 恋知りの謌【謙信】湯治編〜 恋心 〜③
「ない知恵を絞って無用な遠慮などしたら許さんぞ。いつでも何度でも、こうして顔を出しに来い。」
「信長様の仰る通り、遠慮などするなよ?」
信長と秀吉の言葉は美蘭の胸に熱く染み渡った。
泣き出しそうな感情を堪えていたのだが、
「あまりに顔を出さぬと攻め入るぞ。」
「信長様は、本気だからな。」
だんだん過激になる物言いは相変わらずで、
懐かしさと嬉しさが入り混じり楽しい気分にさせられ
「ふ…ふふふ!」
思わず笑ってしまった。
(…その顔が見たかったんだ…。)
久しぶりに、安土にいた頃に近い状態で美蘭と顔をあわせることができた秀吉は、花のような笑顔を見て、
懐かしいような、安心したような、不思議な、あたたかい気持ちになった。
「さあ早くここに来い。」
信長の威厳に満ちた命令に、満面の笑みの美蘭。
「はい♡」
警戒心皆無で近づいてきた美蘭の手首を、信長がぐい!と引き寄せると
「…っきゃ…っ!」
簡単に脚元が崩れた美蘭は、信長の膝の上にぽふん!と倒れこんだ。
「久しぶりなのに…急に何するんですか!」
秀吉が座しているのと反対側から、秀吉のいる方に向かい倒れ込んだ美蘭。
信長に抗議するのに夢中になっている美蘭の顔が、思いの外秀吉の顔の近くになっており、秀吉は、内心胸をどきりと騒めかせた。
「久しぶりだからこそ…触って変わりないか確認しておるのだ。伽でもすれば身体中くまなく確認してやれるが?」
「…っ。信長様っ!またそんなことを…っ。」
信長が出会った頃から繰り返し聞かされてきた言葉に、美蘭は今回も真っ赤な顔で抗議をしながらも、
謙信に繰り返し抱かれ深い快楽を知ってしまった身体は、謙信に翻弄された夜を瞬間的に思い出してしまい、否応無しに体温を上げた。
「……ほう?」
信長は、
美蘭の顎をゴツゴツした指で掴み上を向かせた。
「…っ?」
「そんな物欲しそうな顔が出来るようになったか。」
「…っ!…なっ…!」
(……上杉め。)
内心、美蘭にこんな顔をさせている謙信に、チリ…と嫉妬の炎を燃やしたのは、信長だけではなかった。
その場にいた武将誰もが、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。