第15章 恋知りの謌【謙信】湯治編 〜恋心〜②
「ほら、おまえが好きなきな粉のおはぎだ。食べろ。」
兎を膝に乗せて刺繍を続けている美蘭に、自作のおはぎを進めてくる政宗。
「ありがとう政宗…でも今は食べれないから後で…」
「食わしてやる。口開けろ。ほら!」
口元におはぎを押し付けられ
「え?…いいよ…っ!…っへいっはほひ…」
遠慮を伝えるためほんの少し開いた唇の隙間から、おはぎを強引に食べさせられた。
「あーもう。きな粉こぼれてる!」
可愛らしい口の端からボロボロこぼれ落ちるきな粉を見て、家康が叫ぶ。
「わたくしがお拭きします!」
立ち上がろうとする三成を手で制した秀吉は、
「三成…気持ちだけで充分だ。俺が拭く。」
持っていた布巾で、もぐもぐとおはぎを咀嚼している美蘭の口の端を拭ってやった。
「美味しい♡」
ガヤガヤする周囲を気にせず、こぼれたきな粉を秀吉に拭かれながら浮かべた愛らしい美蘭の笑顔に、
「「「「 ……! 」」」」
全員が釘付けになった。
その時。
「美味そうな甘味だな。一つ頂戴できるか?」
人当たりの良い、低音が聞こえた。
全員が声がした方に視線を向けると、
そこにいたのは、吹田軍の鍛錬場から歩いて来たらしい謙信、信玄、幸村、佐助、椿の5人だった。
甘味を強請ったのは、もちろん信玄。
「みなさん!鍛錬は終わったんですか?お疲れ様でした♡」
美蘭は花のような笑顔を向け、
秀吉、政宗、家康は無表情になった。
武将の中でただ1人、三成は満面の笑顔を浮かべて言った。
「流石は軍神と呼ばれる謙信様、連日ご精(せい)が出ますね。ご安心ください、美蘭様はわたし共がお一人にはさせませんので。」
だが、その優しげな笑顔で発した言葉には棘しかなかった。
「武士たる者、日々精進するのは当然であろう。」
「旅先で恋人を放ってまで…素晴らしいですね。頭が下がります。」
無表情の謙信と笑顔だが殺気に満たされている三成の間にただならぬ雰囲気が漂い始めたが、鶴姫に添えた佐助の手が無言で防いでいた。
そんな重苦しい空気を可愛らしい声が中和する。
「ほら兎さん、あなたの大好きな椿さんが帰って来たよ?」
美蘭が、
ずっと膝の上にいた兎に優しく話しかけた。