第15章 恋知りの謌【謙信】湯治編 〜恋心〜②
「だからおまえは、踏み込みが早過ぎて…逆に次の動きが丸わかりなんだっつーの!」
幸村が盛大に突っ込んでいる、その相手は…
「なるほど。だからああなるのか。流石は幸村。ガサツだが武道に関しては鋭いな。」
椿であった。
娘を思う両親が、少々強引にすすめた見合い話に心を痛めていた弟分(妹分?)を気遣った謙信は、
美蘭の勧めもあり、
吹田軍の鍛錬場に連日顔を出しに行っていた。
椿に、身内に近い、日々一緒に鍛錬している 仲間以外の男とも交流させてやろう…と気遣った謙信は、信玄、幸村、佐助も連日連れて行った。
「誰がガサツだって?!」
「幸。うら若き乙女相手に大声はいただけないぞ?」
「うっせー!刀持った時点で命懸けだ。男も女もネェ!」
「すまない、椿さん。悪い奴じゃないんだ。」
連日一緒に鍛えているうちに、お互いに打ち解けてきた面々。
「…信玄殿、佐助殿、幸村の言っていることに誤りはない。女だと手を抜かず、是非いろいろ教えてくれ。」
人見知りの椿も、ようやく自然と笑顔で話せるようになった。
その、たまに見せるようになった椿の笑顔は、
まさに16歳のあどけなく可愛らしい少女の笑顔であった。
「…ほう。これは女としても剣客としても行き先楽しみだな?」
「また余計なこと言ってんじゃねー!」
繰り広げられる賑やかな会話に、静かに穏やかな笑みを浮かべる謙信を見て、あたたかな気持ちになった椿。
(ずっとこんな日が続けばいいのに。)
鍛錬を終え清々しい気持ちで、楽しい話をしながら帰途についた面々と、共に歩きながら、椿はそう思った。
暫く歩くと、
今まで柔らかかった、椿の隣を歩いている謙信の気配が、急激に硬化した。
(……?)
その変化に気づいた椿は、
いったいどうしたのか?と思い周囲を見渡すと
「…っ!」
少し先の草原に敷物を敷いて男が数人集まっており、
その中に、
謙信の許嫁(いいなづけ)がいるのが見えた。
(……この間と同じ。)
明らかに、許嫁が他の男に囲まれているのを見て不愉快になっている謙信を目の当たりにして、
椿は、
胸がざわついた。