第1章 梅の花 嫉妬の謳(秀吉誕生祝い2017)
秀吉は、枕元に乱雑に転がる懐剣を拾い上げると、それを丁寧に鏡台の前に置いた。
『誰の元に輿入れしても…』
そんな言い方をしていた信長だったが、秀吉のことを配慮してのことに違いなかった。
(ご自分も美蘭を側に置きたいと思っておられるだろうに…。)
自分が仕える主の懐の深さに、胸が熱くなった。
(信長様、ありがとうございます…。)
美蘭が、どんなに自分にとって大切な存在であるのか思い知った秀吉。
「美蘭。聞いてくれ。」
その美蘭に、きちんと誓いたいと思った。
「俺が共に生きていきたい女は、お前だけだ。」
「……っ!」
美蘭の華奢な肩が、ぴくりと揺れた。
「お前の生きてきた500年後と、この戦国の世の違いに…お前は必死に馴染み、俺に寄り添ってくれた。」
戦国の、男の生き方が、武将の生き方が最優先されるこの世で、
信長の美蘭への思いに気づいたこともあり
忠義から外れたことができない秀吉は、大切だと感じながらも、美蘭のことを後回しにしてきた。
戦国の世に生きる以上、
これからも美蘭を優先できない事態はやってくるだろう。
だからこそ
しっかり誓っておこうと、秀吉は思った。
「俺も、お前を幸せにするためなら、500年後の常にも馴染んで見せる。」
例え離れていても
美蘭が不安にならないように。
「側室など、以降も決して持たぬと誓う。」
「……!」
美蘭の笑顔が曇らないように。
「だから…俺と、共に生きてくれるか?」
「…はい…っ!」
美蘭は、ポロポロと頬を流れ落ちる涙にかまわず、花が咲くような笑顔でそう言った。
「…っ。」
あまりにもその笑顔が
眩しくて
が愛しくて
「…愛してる…。」
美蘭を、胸に掻き抱いた。
「う…っ…。秀吉…さん、愛してる…っ。」
美蘭は、安心したのだろう、
耐えてきたものを吐き出すように、秀吉の胸に縋り付いて泣いた。
(これからは、こんな思いはさせないからな…。)
秀吉は、縋り泣く美蘭の身体を抱く腕に力を込め、
優しく髪に口付けた。