第11章 恋知りの謌【謙信】湯治編〜露天風呂 後編〜
(一緒に入っていた安土の方々…)
ひた走る謙信の頭の中には、
先ほどの佐助の言葉が渦巻いていた。
美蘭は、安土の武将たちと示し合わせて混浴のあの温泉に行ったのだろうか?
彼奴らが勝手に付いて行ったのか?
敢えて自分には話さず、行ったのか?
こんなことがなかったら、美蘭は行ったことを自分に話しただろうか?
嫉妬と焦燥と怒りと心配が入り混じった感情は、
様々な憶測を謙信の頭の中に生み出させた。
無我夢中で夜道を走り続け
謙信と佐助は、
安土の武将たちが寝泊まりしている離れに辿り着いた。
バタバタと、勝手に上がり込み廊下を進んでいく謙信。
広い離れの中を、美蘭を探して歩き回る。
少し進むと
「これは謙信殿。」
2人は三成と鉢合わせした。
「勝手にお邪魔してすみません。」
佐助が頭を下げると
「美蘭様がご心配故のこと、承知しておりますのでお気になさらず。」
三成は柔らかな笑顔で、そう言った。
「…美蘭が世話になったそうだな。」
左右色違いの瞳が放つ眼光は鋭く、
添えられた礼の言葉がなければ、殺意を向けられているとしか思えない冷たい空気を放っていた。
「たまたま居合わせたのが幸いでした。」
謙信は、三成のその言葉に、美蘭が自分に内密に安土の武将たちと約束して落ちあった訳ではないのだとわかり、ホッと胸を撫で下ろした。
…たまたま、というのは嘘であろうが。
「私たちが行きましたら、美蘭様が湯の中に沈んでおられて驚きました。湯の中で気を失われるような出来事でもあったのでしょうか…。」
三成は柔らかな声はそのままに、ギラリと眼光を光らせ、謙信を睨みつけながら、美蘭が湯の中に沈んだ原因を責めたてるかのように、言った。
「「 ………。 」」
謙信と三成は、暫し鋭い視線をぶつけ合った。
「ひとまず、美蘭さんに会わせて下さい。」
佐助の一言に、
三成の気配が緩んだ。
「そうですね。ご案内いたします。」