第1章 梅の花 嫉妬の謳(秀吉誕生祝い2017)
「そもそも…美蘭が誰に輿入れすることになっても、家柄などにケチがつかぬように織田の家紋入りの懐剣を持たせて披露したのだ。
俺が貴様の立場なら…、あの場で美蘭を連れ歩いて周りに自分の女だと知らしめたぞ、秀吉」
「……!!!」
秀吉が我を忘れ、美蘭に八つ当たりのような扱いをしてしまったきっかけとなった懐剣。
それに込められた真意と願いは、
美蘭がこの戦国の世で幸せになれるように。
美蘭と連れ添う覚悟を決めたこの戦国の世の男が、誰に恥じることなく、文句を言われることなく、大手をふって美蘭を迎えられるように。
美蘭を取り巻く全ての幸せを願ったものだった。
「御館様…っ!!!」
(なんというお方だ。やはり人としての器の格が違う…。)
秀吉は自分が情けなかった。
目の前の感情に飲み込まれ、信長のように、周囲や先々のことに配慮することが出来なかった。
それどころか、
心を乱す原因となった愛する女の笑顔さえ、不安に曇らせてしまった。
「秀吉。貴様自身わかっているようだが。今の貴様になど…到底、美蘭を輿入れなどさせられん。」
自己嫌悪の波に揉みくちゃにされていた秀吉に言い渡されたのは、
愛し合う2人には耳を塞ぎたくなるような言の葉。
「だが…貴様らが勝手に、美蘭は秀吉の許嫁だと言うのくらいは許してやる。」
「「……!」」
「祝言は…秀吉、貴様がもっと男を上げてから考えてやる。」
そう言った信長は、ニヤリと笑った。
「ありがたき…幸せ!!!」
秀吉は、涙が出そうな感情を抑えながら、深々と頭を下げた。
「ありがとう…ございます…っ。」
天守入り口の廊下に膝ま付いている美蘭は、顔を真っ赤にして、肩を震わせながら涙をポロポロと流した。
美蘭をここに連れてきた三成が、その様子を気遣い美蘭の隣にしゃがみ込んだ。
「…美蘭様…。」
そして、美蘭を慰めるように、美蘭の肩に手をかけた。
「猿よ、貴様の忠義なぞ見飽きている。こんな時、彼奴の肩を抱くのは貴様ではないのか。」
「…!!!」