第1章 梅の花 嫉妬の謳(秀吉誕生祝い2017)
「唯一無二…そのように大事な女がいるとしたら…俺ならもっと上手く立ち回るがな。」
信長の呟きが聞こえ、
秀吉はまた、信長の顔に視線を戻す。
「貴様。あの呆けた様子。肝心な美蘭本人には、どのような立場で迎えるか…何も伝えておらんな?」
眉間に皺を寄せながら言う信長に
「…はっ。御恥ずかしながら…。」
秀吉が、居心地悪そうに答えた。
「貴様が恥ずかしいなどどうでも構わんが。そのような状態で公の宴になど参加すれば、美蘭が心許ない思いをするであろうとわからなかったか。」
「…!!!」
「500年先の世では、側室は忌むべき存在らしいぞ。そんな世の常しか知らん美蘭が、宴で女子に囲まれる貴様をどう見ただろうな?」
秀吉は、信長の言葉でようやく、部屋を訪れた際の気まずそうな顔の理由に気づいた。
美蘭にあんな顔をさせていたのは
他の誰でもない
迷い、前に進めずにいた、自分自身だったのだ。
「美蘭。こんな不器用な猿で構わんのか?此度のことで幻滅したなら…この俺が正室に迎えてやっても良いぞ。」
「…!」
信長の視線が自分を通り越して美蘭に向けられた。
(御館様は本気だ。)
秀吉も美蘭の気持ちを知りたくて、振り向いて美蘭に視線を向けた。
「ありがとうございます。」
「…⁉︎」
まるで信長の申出を受けるような話し出しに、秀吉は肝を冷やした。
「…でも、私にとっても…秀吉さんが、唯一無二の大切な人です。」
だが、それは杞憂であった。
「未来からきた私には、側室なんて信じられないと思ってました。でも、秀吉さんが大切で…秀吉さんの側にいられるなら…どんな立場でも構わないと…思…っ…いました…。だから…信長様の正室にはなれません…。」
美蘭は、真っ赤な顔で声を震わせながら、必死に答えた。
その健気な姿に、
美蘭の、自分への深い、見返りを求めない純粋な愛情に、
秀吉の胸は激しく震えた。
そして美蘭は静かにその場に膝間付くと
深々と頭を下げた。
「信長様、私からもお願いします。どうか私を、秀吉さんの側にいさせてください。」
「…美蘭」