第11章 恋知りの謌【謙信】湯治編〜露天風呂 後編〜
「……?……ここ…は?」
目覚めた美蘭は、最初に目に映った見知らぬ天井と自分が袖を通している見慣れぬ浴衣に、素直な疑問を呟いた。
「ここは信長様の…安土の離れ。」
「…?…家康……!…っつ…!」
聴こえた懐かしい声に、慌てて起き上がると、頭がズキリと痛んだ美蘭は、顔をしかめた。
「起き上がると辛いんだね。まだ寝てて。」
そう言いながら、家康は、美蘭を褥に優しく横たえた。
「あんたは、露天風呂の底に沈んでたんだ。いったい何やってた訳?」
「何って…。」
家康に言われてまだハッキリしない意識の中、記憶を辿って行くと
「……!」
椿に言い寄られた謙信が、椿を追って出て行ってしまったことが鮮明に思い出された。
「…別……に…。」
そう口では言いながら、
じわじわと湧き上がる涙が瞳から溢れ落ちた。
「……っ。」
目の前で、ポロポロと涙を流す、心許ない様子の美蘭に、家康はキュンとした。
同時に、蘇生のためだったとはいえ、手拭いごしに触れた美蘭の柔らかな乳房の感触を思い出して、ゾクリともした。
「別にって顔じゃないでしょ。」
家康は熱を孕んだ瞳で、無意識に美蘭の頬を濡らしている涙を拭ってやった。
「それ以上邪なことを考えると、貴様を風呂に沈めるぞ。家康。」
そこに、また懐かしい低音の声が響いた。
信長が、秀吉、光秀、政宗とともに部屋に入って来たのだった。
「…信長様!…っッ。」
美蘭はまた慌てて起き上がろうとしたのだが、頭がズキリと痛んで叶わなかった。
「良い。そのまま寝ていろ。」
今度は信長に、優しく制された。
「…すみません…。」
美蘭は、素直に優しさに甘えて、また褥に横たわった。
「別に邪なことなんて…。」
家康の呟きを、光秀と政宗はニヤリと笑って聞き流した。
「………。」
秀吉は、何やら不機嫌そうな様子でそこにいる。
美蘭の褥の横に信長はあぐらをかいて座りながら言った。
「美蘭、その涙は何だ。貴様は幸せではないのか?」
そしてギラリと鋭い瞳で続けた。
「返事によっては、貴様を上杉から取り返す。」
「…!!!」