第11章 恋知りの謌【謙信】湯治編〜露天風呂 後編〜
しばらく続けると
美蘭の身体に反応があらわれ、
気づいた秀吉が慌てて唇と身体を離すと
「…ごほッ!…っ…う…ゲホゲホ!!!」
美蘭は、
口から飲み込んだ水を吐き出し、咳き込みながら意識を取り戻した。
「「「美蘭!」」」
「美蘭様!」
「まったく…貴様という女は…」
安土の武将たちは、胸を撫で下ろした。
その時
謙信は、
早足で屋敷へ帰り道を急ぐ椿の一歩後を付いて歩いていた。
突然歩みを止めた椿。
振り返ると、
「なんで着いてくる!」
真っ赤な顔の、険しい怒り顔で謙信を睨みながら叫んだ。
「吹田殿に、お前を送り届けるためだ。」
淡々と答える謙信。
「…!……子供…扱いか…。」
謙信の変わらぬ態度と子供扱いに、椿はカッとなった。
「名言しておく。」
謙信は尚も淡々と続ける。
「…!ッハ。何を?…わたしは抱けないと…か?」
「そうではない。」
「…?」
怒りで悲しみや羞恥を覆い隠そうとしている椿に、謙信は言い聞かせるように言った。
「お前だけではない。俺はこの先、美蘭以外の女を抱くつもりはない。」
「…!!!」
「だから側室もいらぬ。子が生まれぬならそれでも良い。俺に必要なのは美蘭、ただ1人だ。」
眉ひとつ動かさずそう言い切った謙信の表情は、残酷なほどに澄み渡っていた。
その凜とした佇まいに、
その確固たる意志には、微塵も揺らぐ隙はないのだとわかる。
「…っ。…わかってる…。」
椿は、ボロボロと涙を流した。
「…でも…知らない人に嫁いで、知らない人の子を産むなんて…そんなのできない…っ…。謙信なら…いいと思ったんだ…っ。」
「…ならば、思うようにすれば良い。」
椿が取り乱し涙しても、謙信は冷静に続けた。
「相手を知ってから、全て進めれば良いのだ。俺が今から吹田殿に、椿を…俺の弟子を、あまり追い込むな…と言いに行ってやる。」
謙信は、知っていたのだ。
吹田夫妻が、男まさりな椿の将来を心配していることを。
椿が、男まさりだが、まだ幼い心の少女であることを。
「…う…うう…っ!…謙信ッ〜〜!!!」
独り張り詰めていた椿は、
謙信という味方の登場に安堵の涙を流した。