第9章 恋知りの謳【謙信】湯治編 〜月夜の宴〜
あまりの可愛さにキュンとなりながらも、
信玄にもこんなことをしたのだろうか?と、疑心暗鬼になる謙信。
「美蘭…。」
「なんですか?」
「信玄と伽をしたのか?」
謙信は思い切って、疑問を口にした。
「……へ??!」
「責めている訳ではない。あの時は…俺もお前にひどい事をしたのだから…。ただ…お前のことは…全て知りたいのだ…。」
意を決した様子の謙信に驚いた美蘭は、酔いなど吹き飛んでしまった。
「まさか!!!し…してません…っ!」
「…?では何故…彼奴はお前の胸に俺が吸い付いた跡があった…などと。印を付けた事を知っていたのだ。」
眉間に皺を寄せ、色違いの瞳は美蘭を追い詰める。
「印を…ワザとつけてたんですか?」
一瞬、本題とは違うことに驚きつつ、
「…あ…っ!」
美蘭は、謙信にはまだ話していなかった、信玄とのあの出来事を思い出した。
「……………。」
「…………何だ。言えぬようなことか。」
言いにくい。
言いたくない。
だけど
隠したりしたら、きっと不安にさせてしまうだろう。
やっと昔からの深い心の傷から立ち直り始めた謙信の心に、自分が原因の暗い影など落としたくはない。
「信玄様に…裸を、お見せました。」
言い終えた後の一瞬が
永遠に感じて、
美蘭は固唾を飲んだ。
「…!…お前から?自ら見せたのか?」
「……はい。」
「何故そのような…」
「見せたら…伊勢姫さんと謙信様に何があったのか、教えてくださると言われて…」
「…?!」
「…もう…あの時は視線すら合わせて頂けなかった時でしたけど…。謙信様が何故苦しんでいるのか知りたくて…」
美蘭は、無理に笑おうとしたが、笑えていなかった。
「…美蘭…。」
「…ごめんなさいっ…。謙信様に拒絶されたことを…思い出しただけでも悲しくて…っ…」
美蘭の瞳から、大粒の涙が伝い落ちた。
「すまぬ…辛いことを思い出させた。」
その辛い思いをさせたのも自分自身だという事実に、謙信は言葉もなかった。
そして
そんな自分を知ろうとして身を差し出すような真似をした、馬鹿で愚かな女が
どうしようもなく、愛しいと思った。