第9章 恋知りの謳【謙信】湯治編 〜月夜の宴〜
見惚れていると、また船を漕ぎ始めた美蘭。
「…っ!危ないっ…」
後ろにひっくりかえりそうになった美蘭。
いち早く気づいた信玄が立ち上がり、
背後に滑り込むように座ると、
ぽふん!と、
倒れてきた美蘭を後ろから抱きとめた。
「まったく酔っ払いが…。…っ…!」
ギリギリ抱きとめられてホッとした信玄が、安心して腕の中の酔っ払いの顔を覗き込むと、
「…っ!!!」
長い睫毛、紅潮した頬に、わずかに開かれた唇…
その寝顔はあまりに可愛らしくも色っぽく、
少し乱れた合わせにゴクリと喉を鳴らした。
ジャキン!
「信玄、貴様…何をやっている?」
今度は逆刃ではない鶴姫が、信玄の喉元に突きつけられた。
「危ないっ!危ないぞ、謙信!いまの天女は酔っ払いな上寝惚けてるんだ!急に動くぞ?怪我させるぞ?!刀をおさめろ!!!」
「……。」
信玄の必死な様子に、嘘は言っていないことはわかった謙信は、不愉快な顔はそのままに、鶴姫を鞘に収めた。
「お前達がついていて、何故美蘭をこんな状態にした?」
ギロリと睨まれギョッとしながらも、幸村と佐助は答えた。
「は?!完全に自爆だったぞ?!」
「確かに…自爆でしたね…。」
その隣で美蘭を抱きしめている(ように見える)信玄を見た謙信は
「…!!!」
急に顔色を変え、信玄から美蘭を奪うように取り上げた。
横抱きにした美蘭を隣の閨に連れて行くと、褥の上でギュッと抱きしめた。
『今後俺のモノに勝手に手を出すのは止めてくれよな。流石に着物を脱がせた女に他の男の印なんぞ見つけた日には、興が冷める。』
春日山の鍛錬場で、信玄が言った言葉を思い出したのだ。
(…信玄は…美蘭を抱いたのだろうか?)
謙信は、焦燥感に押し潰されそうになり、
美蘭を抱き締める腕に、力を込めた。
「う…ん…苦し…っ…」
謙信の強過ぎる抱擁に
目が覚めた美蘭。
「あ…♡謙信様…おかえりなさい♡」
寝惚けまなこでフニャリと笑うと、
今度は自分から謙信に抱きついた。