第8章 恋知りの謳【謙信】湯治編 〜湯治場へ〜
昼餉をとった後
込み入った話になっていた男性陣の勧めで、美蘭は、まだ日が高いが、先に離れについている温泉に入らせてもらうことになった。
離れについている温泉と言っても、庭園造りの大きな露天風呂もついている立派な温泉。
白濁とした湯が特徴の温泉に浸かった美蘭は、
身体に染み入る心地良さと、内面に湧き上がる嬉しさで、顔の緩みが止まらなかった。
謙信はああ言っていたが…
織田から謙信が美蘭を取り戻す時、信玄との同盟が解除されていたことが状況をわかりやすくしていた。
信玄はそれを見越して、美蘭を織田に引き渡す直前に上杉との同盟を解除したのに違いなかった。
幸村にとってはまさに晴天の霹靂で、まさか領土を取り戻しに行ったまま春日山に帰れなくなるとは思ってもいなかったろう。
信玄への礼と、幸村ねの詫びと労い…そんな思いを込めて、謙信は信玄と幸村をここに来るようにしむけたのだった。
……と、美蘭は、佐助からこっそり説明を受けた。
(…律儀な謙信様らしいな。)
謙信の儀を重んじる性格に潜む優しさと、それによって再会が果たせた仲間たちの光景に、胸があたたかくなった。
またこの地で、自分も含め、皆んなで楽しい時を共に過ごせるのだという期待に胸が膨らんだ。
森林の香りを吸い込んで、大きく深呼吸をして、また露天風呂を楽しもうと思った
その時
バン!!!!!!
風呂の入り口の戸が開け放たれた。
「…きゃっ!!」
突然のことに驚き、胸元を手で隠しながら戸口に目を向けると、
そこにいたのは
「……謙信…様?!」
「美蘭!早く上がって、着物を着ろ!」
ものすごく怖い形相の謙信に、威圧的に促され、露天風呂から上がらされた美蘭。
「おまえのここでの衣装はここに揃えさせてある。早くしろ。」
風呂場に隣接した小部屋は、美蘭専用の衣装部屋であった。
色とりどりの浴衣に着物。果ては下着や小物まで全てが用意されていた。突然連れてこられて驚いたが、さすが謙信のやることに抜かりはないのだな…と、感心してしまった美蘭。
「素敵!どれを着てもいいのですか?」
「好きにするが良い。とにかく早くしろ!」
「…?…はい。ありがとうございます。。。」