第5章 囚われの謌【光秀】共通ルート
延々と山道を歩かされ山小屋に連れてこられた。
普段あまり使われていない様子の入り口の引き戸が、ガタガタとこじ開けられると
2人は中に乱暴に押し入れられ、
「…きゃっ!」
バランスを崩した美蘭は、よろけて土間に膝をついた。
狩猟の時期にだけ猟師が使う小屋だろうか。
安土の領土から連れ出されてしまったかも知れない。
「ここで大人しくしていろ!」
侍たちは、そう捨て台詞を残して
引き戸をガタガタと乱暴に閉めて去って行った。
閉じ込めただけで、侍たちは光秀に何も要求しなかった。
それは侍たちがただの使いであることの証。
(黒幕は他にいて、侍たちは報告と次の指示を受けるため一度帰った…というところか。まああの大名の側近が黒幕だろうがな。)
光秀が小窓から外の様子を眺め、見張りの人数を確認しながら状況を分析していると
「光秀さん…。」
背中から弱々しい美蘭の声が聞こえた。
振り向けば、
後手に縛られた不安気な表情の美蘭が光秀を見上げていた。
「いい格好だな?」
「……え?」
「縛られているお前というのも、悪くない。」
「…な?!何言ってるんですか!光秀さんだってっ」
真っ赤な顔で言い返す美蘭。
「ああ、これか?こんなものすぐに抜けられる。」
光秀が少しの間ゴソゴソ身体を動かすと、
縛っていた縄が、パサリと土間に落ちた。
「…っ!ならどうしてっ」
「動けるからと考えなしに動いていたら命が幾つあっても足りん。何でもまずは状況把握が必要だ。それに俺とお前が夕餉を食べて帰ることは城に連絡してある。これだけ2人で戻らなければ、城中大騒ぎになっているに決まっているだろう。」
縛られて血流が滞らせられた腕を動かして整えながら光秀は答えた。
「…ちゃんと考えてるんですね…。」
「まあ最初は、俺がお前を攫ったと疑われそうだがな。」
「…?」
「奴らの期待通りの展開にしてやってもいいが?」
顎を指でくいと上げられ、光秀の顔が間近に迫る。
後手に縛られたままの美蘭は、
身動き出来ずただ赤面する他なかった。