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【イケメン戦国】恋花謳〜コイハナウタ〜

第4章 恋知りの謳【謙信】


「さよならも言わせてくれなかったのに…こんなっ…」

止まらぬ涙に頬を濡らしながら、謙信を恨めしく見上げた美蘭。



「たとえ一時(いっとき)のものであろうと、お前の口からこの俺への別れの言葉など聞くに耐えられぬ。」

消えそうな声で謙信はそう答えた。



「…!」

謙信のその我儘のために、
自分がどれだけ辛く悲しい思いをしたことか。

…烈火のごとく怒りが込み上げた。



だが、

「すまなかった。」

そう詫びる目の前の切なく縋るような瞳に、

そんな怒りは瞬時に消し去られた。



理不尽な行いをしてでも自分の言葉に傷つくのを恐れ、形式的な別れの言葉すら交わすことが出来なかったこの目の前の愛しい男は


なんと
脆く傷つきやすいのだろう。


なんと
深く自分を愛してくれているのであろう。


美蘭の胸は、ギュッと締め付けられた。



「飽きたらいつでも帰って来い。」
信長は、余裕の笑顔でそう言った。


(無用な心配を)
美蘭にしか聞こえない小さな声で呟いた謙信は、



美蘭を自分に引き寄せ体勢を整えると

「しかと譲り受けた。」

威風堂々、宣言するように声を上げた。



「勘違いするな。そっちに住まわせてやるだけだ。織田にとってその女の存在意義は変わらん」

信長が、安土の武将たちが、黙って見送るその理由は、美蘭の幸せを願っているからに他ならない。

謙信にも、それが痛いほど伝わってきた。


「…好きに宣え。」

必ずや幸せにするから安心しろ。…そう思いを込めて睨みつけると、白馬の踵を返した。


「皆さん、お世話になりました!」

後ろを向いて乗り出すように、織田の武将たちにお礼を伝えようとする美蘭。


謙信は、

「…きゃっ!」

後ろを向いてバランスを崩した美蘭の足をとり、自分の前で白馬に跨がせた。

「舌を噛まぬよう、口を閉じておれよ。」

そしてそう言うと、

「…はっ!」

白馬の腹を蹴り、春日山に向けて走り出した。




小さくなっていく、美蘭を乗せた白馬。
崖の上の兵の、引き上げて行く音。


「信長様…何故、、、」
政宗は納得いかない様子で言った。



「あれは無理には咲かぬ花。鳥籠の中では鳴かぬ鳥よ。」
信長は遠い目をしていた。

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