第4章 恋知りの謳【謙信】
「信長、美蘭自らが、美蘭はこの俺の物であると申しておる。持ち主がはっきりしたのだ。おとなしくこちらへ差し出せ。」
自分に刃が向けられていることなど気にもとめず、淡々と信長に詰め寄る謙信。
「ふっざけんな…っ…」
ついに我慢ならないといった様子の政宗を含む3人の武将を
「……良い。」
信長が静かに制した。
「…しかし!」
「何度も同じことを言わせるな。良いと言っている。」
静かだが、強い意志の込められた信長の言葉に、それ以上反論できる者は居なかった。
3人の謙信に向けられていた刃は、収められた。
「貴様は本当に読めぬ女よ。」
信長は、
人差し指で美蘭の頬を優しくさすりながら言った。
「…ごめんなさ…っい…。」
美蘭は、
こんな時にも優しくしてくれる信長に、申し訳なさと感謝で胸がいっぱいになった。
「春日山に行きたいなら行くが良い。」
信長は一度視線だけを謙信に向けそう言うと、
また美蘭に視線を戻して言葉を続けた。
「だが…貴様は何処に居ようがこの織田軍に幸運をもたらす女であることには変わりない。それを忘れるなよ。」
「…っ…忘れるわけ…ありません…っ。」
美蘭は、即答した。
「どうだかな。」
しかし信長にひやりとした視線を向けられた美蘭。
更に言い返そうとした
その時
「…!絶対…っ…んう…っ…!」
全て言切らせて貰えず、
信長に唇を奪われた。
後頭部の髪に大きな手を挿し込まれ固定され、身動き出来ない美蘭は逃れることが出来なかった。
それは噛み付くような、口付け。
「…っん…っちゅ…っはあ…っ!何を…っ!」
美蘭はせめてもの抵抗で涙の乾かぬ瞳で信長を睨みつけた。
「これで絶対に安土を忘れられんようになったろう?」
信長は勝ち誇った顔でニヤリと笑った。
「…!」
「いや…俺を忘れられんようになったか?」
これが信長なりの見送り。
そう感じとった美蘭は
「…っ。…もう!知りませんっ…!」
それ以上の抵抗を止めた。