第5章 -わがままデート-(二口堅治)
「はい。大丈夫です。」
相手は及川さんだし、やましいコトもないし、わたしはソファに座って話すコトにした。
『すみれ、熊ちゃんの講義取ってるって言ってたよね?オレ、去年取っててさ、去年のテスト、出てきたんだけど、すみれ、使うかなと思って♪』
「え⁈ほんとですか⁈ほしいです!使いますっ‼︎」
及川さんは、熊ちゃんだなんて言ってるけど、それは及川さんだから言えるだけであって、熊川先生はほんとに厳しくて試験もかなり難しいらしくて、及川さんの言葉は神のようで…
「早く風呂ーー」
いつのまにか堅治がソファの後ろにいて、スマホを持っていない逆の耳にそっと囁いてきた。
「…っ⁈」
『すみれ?どうかした?』
「いえ!なんでもないです!」
ビクッとしてしまったのが、及川さんへも伝わってしまったらしい…。わたしは堅治に口パクで「待ってってば!」と言ってから、慌てて返事をした。
『じゃ、明日渡すね♪明日、お昼って学校いる?』
「はい!」
『じゃあ、お昼一緒に食べよーよ♪』
「なー?まーだー?」
「…っ⁈」
また堅治が耳元で囁いてくるので、わたしは堅治の手をギューッと押し返し、怒った表情を見せる。もちろん、電話口の及川さんには怒った声なんて出さない。
てゆぅか、待ってる間に入れてくれればいいのに…。
そう思いながら、及川さんとの会話を続ける。
「じゃ、お礼にご馳走します!」
『せっかくご馳走なら、すみれの手作りのお弁当がいーなー♡』
「わたしのお弁当なんて食べなくても、及川さん、手作りお弁当の差し入れ、よく貰ってるじゃないですか♪」
「…!?」
笑いながら返事をすると、突然後ろにいた堅治が、隣にドンッと座ってきた。
『そーだけどさー。たまに高校の時食べてたすみれの弁当が懐かしくなるんだよねー。』
「あはは♪そんなコト言ってくれるの及川さんだけですよ。」
『二口くん恥ずかしがり屋っぽいもんねー。ちょっと岩ちゃんタイプー?』
「岩泉さんとも違いますよー。岩泉さんはザ・漢って感じでカッコいいし♪」
堅治なんか、お風呂入れてもごはん作っても何も言ってくれないもん…。及川さんなら、なんでも優しく褒めてくれるだろうし、岩泉さんは、言うべき時にはきちんと言ってくれるはず…。
でも…堅治は…