第3章 桐山照史
" 桐山さんに彼女が出来た "
その噂が広がったのは屋上で
食べた次の日だった。
出勤したら話題はその話で持ちきり。
片思いの人と付き合えたんだ。
ズキズキしながらも、
良かったなって安心する。
これで感情をかき乱されないで
日常に戻れるってことだよね
なのに溢れそうになる涙は
一体どういう事なの?
「…ちゃん、泣いてんの?」
ファイルやら書類やらを
たくさん抱えた小瀧さんが駆け寄ってきた。
ふるふると横に首を振る。
違う、そんなんじゃない。
『…違います』
「好きやったんなら…
なんでちゃんと言わへんかったん?」
『だから…違いますって、』
「ほら。今からでも遅くないから!」
『違います!!!
そんなんじゃありません。
好きなんかじゃありません、違います
大体、好きってなんですか?
いつも1人でいた私が好きだなんて…』
馬鹿らしいじゃないか。
私は桐山さんみたいになりたいだけだ。
明るく笑顔で優しい人。
そう、ただの憧れの人なのだ。
好きなんかじゃない。
「そうやって言わへんかった事に、
なんで誤魔化したりする必要があるん」
好きだと言えたら
きっとこうして本当の気持ちを
捻じ曲げてまで言い訳なんかしなかった。
end.
1人でいることに
誰かを好きになることを
知ってしまったなら、
きっと寂しいという気持ちも
味わってしまうのだろうか