第1章 待ったなし。
「早く帰りなさい。あんたの両親、心配してる」
「だから、してないってば」
してないわけがない。
こんなにも大事に育てられてきたというのに、なぜ分からないのだろうか。
「じゃあ、違う言い方をするわ。早く帰って。邪魔なの」
これくらい強い言い方をしないと、こいつは動かない。でも、少し強く言いすぎただろうか。邪魔だなんて、言うつもりはなかったのに。まあ、確かに少しは邪魔だなーとか思っちゃってるけど……。いやでも、流石に言いすぎた。だって、ほら……黙り込んじゃったし。
「あ、あの」
「うっわー、可愛なーい」
「は?」
いやいやいやいやいや。
可愛くない?あんたのが可愛くないっての!かなりきつい言い方したよね?それなのに、泣いちゃうどころか落ち込みもしない。私が可愛くないのは……まあ、認めよう。でも、あんただって可愛げも何もないじゃない!
というのは心の奥底に全て沈めて、落ち着いた対応をする。だって、私は大人だもの。十代前半のガキとは心の余裕の差が違う。
「う、うっさい!早く帰れ!!」
…………。
確かに私の方が大人だ。
だがしかし、大人にも腹が立つことだってたくさんある。しょうがないじゃない。腹が立つんだから。
だから、つまり私が言いたいのは…………
大人がガキ相手に言葉を本気で返したからと言って、その人の心がガキだ、だとか、大人気がない、なんてことは絶対にない。
ないに決まってる。