第1章 待ったなし。
「あんたに二年間も私に近付くなって言い続けてきたのに、なんで毎日来るわけ?これも嫌がらせ?」
「なんとでも言えば?ってか、寒いんだけど。早く中入れて」
こんなにも可愛げのないやつだとは思ってもみなかった。どんな嫌がらせのつもりかは知らないけど、実家から離れた都心に借りているアパートに毎日来る。大学に入り、やっと一人で自由だ、と思っていたのに。やっと離れられると思っていたのに。
「入らなくていいから。早く帰って」
それだけ言って、ドアを締め切る。
今までは強引にも部屋に入られていたけど、私だって毎回毎回同じことされてると、それに対抗する術を身につけられる。私だって学習心はある。
少々大人気がなかったかな、と反省するも、残念なことに今の私には善良な心などほとんど持ち合わせていない。あのくそガキに対しては、ね。
テレビをつけると、夕方のニュースが流れる。
《今日は夕方から一気に冷え込むでしょう。外出の際は、防寒具を忘れぬようにしてください。今季一番の寒さかもしれません》
外を見ると雪が降り始めていた。
「…………」
さすがにもう帰った、よね?
雪降り始めてるし。
風だって強いし。
いくら私に嫌がらせって言ったって、そこまでする必要ないわけだし。
「…………」
雪が積もってるか確かめるだけ。
そう、雪が積もってるか確かめるだけ。
鍵をがちゃりと開け、ドアノブにそっと手を伸ばして、ゆっくりとドアを開く。
「なんだ……やっぱり───」
なんだ、やっぱりいないじゃん。
その言葉が途中で遮られる。
「やっと開けてくれたー」
「え!?」
声が聞こえてきた下を見てみると、私の部屋のドアの隣に体操座りしてあいつが座り込んでいた。
鼻と頬と耳を赤くして、両手で腕を抱え、小刻みに震えている。
「待ってて良かったかも」
少し得意げに微笑むその顔を少し可愛いと思い、こいつを部屋に入れてやらなかったことに罪悪感を覚えた私は、やっぱりまだこいつに少し甘いのかもしれない。