第8章 08
少し大きめの声で強めに名前を呼ぶ事で、無理矢理発言権を獲得した。
出発してから一度も逸らされる事のなかった目を、これまでのように…いや、これまで以上に強く見つめた。
俺を見る苗字さんの視線を離さない。
離したくない。
意思が伝わったのか、苗字さんが視線を逸らす事は今までと同様になかった。
離したくないのは何も視線だけではない。
言うんだ、俺の気持ちを。
緊張で乾いた唇をゆっくりと開く。
水分を求めてごくりと喉を上下させた。
「もう隠さない事にしたんスよ」
他の乗客の話し声や再び流れるアナウンスがどこか遠くに感じる。
未だにドア付近にいる俺たちの空間が遮断されたかのようだった。
静かだ、とても。
今しっかりと耳に入ってくるのは、自分の心臓の音と、俺と苗字さんの二人分の呼吸音だけだった。