第8章 08
昨日までの臆病な自分とはここに来る前に別れを告げてきた。
だからこそ俺はここにいる。
そうだ、もう隠さない。
もう、隠せない。
「俺、苗字さんが好きだよ」
時が止まった気がした。
動いているのは窓から見える景色だけ。
ここには俺と苗字さんの二人きりだと思わせるような錯覚に陥るほど、今が二人だけの特別な空間のように感じた。
丁度ボール一個分ほど空いている苗字さんとの距離。
友人の協力もあって、意気地のない俺がありったけの勇気を出してここまで詰めた。
友達じゃなくて、苗字さんの特別になりたい。
あともう少し、ボール一個分近付く為に右手を差し出した。
走り続けていた電車の速度が緩やかになっていく。
あぁ、別れの時が近付いている。
例えここで別れても、どんなに離れる事になっても、君の一番近くにいるのは俺でありたい。
ずっと隣の席から苗字さんを見てきた。
これからも隣で肩を並べて笑い合いたい。
苗字さんを感じていたい。
ずっとずっと、好きだった。
だから、お願い。
もし君が俺を選んでくれるのなら、俺のこの手を掴んでみせて。
Please select one of us to love.
【終】