第6章 06
「何聴いてるんスか?」
「この間友達に借りたんだー。黄瀬くんも聴く?」
「聴く聴く!」
嬉々として片方のイヤホンを受け取った。
耳に嵌めると一つのイヤホンで俺と苗字さんとが繋がり影が一つになる。
無性に嬉しくなった。
身長差もあって俺が屈まないとイヤホンが届かないので、苗字さんに合わせて腰を曲げる。
近くなった距離にどきどきした。
苗字さんが聴いていたのはバラード調のラブソング。
いい曲なんだよと言われて耳を澄ますと、愛してるの単語が耳に入って急激に恥ずかしくなった。
珍しくない歌詞のフレーズにこんなにも反応してしまうのは、きっとこの距離のせいだ。
どうかしていると胸中で溜息を吐いて心を落ち着かせた。
告白なんてしなくても、ずっとこの日常が続くんだと思っていた。
苗字さんと一緒に過ごしていけると思っていた。