第6章 06
苗字さんの協力もあって無事テストを終えた。
じめじめとした梅雨時期も過ぎて、もう夏なんじゃないかと思わせるような天気が続いていた。
全校集会がある為朝練がない今日は、いつもより少し遅めの電車に乗った。
たまたま乗った車両で見慣れた後ろ姿を見付けて思わず笑顔が浮かぶ。
大好きな苗字さんがイヤホンをつけてドアに寄りかかっていた。
いつもこの電車に乗っているのかと知って、なんだか嬉しくなった。
苗字さんの事なら、どんな小さな事だって知ると嬉しくなる。
「苗字さん、おはようっス!」
「あ、黄瀬くん。おはよー!」
俺と話す為に外してくれた片方のイヤホンから微かに音が漏れる。
苗字さんはどんな曲を聴くんだろう。
過去を振り返ってみても音楽の話をした事はなかった。
あれだけ一緒にいたのに、まだ知らない事が沢山あるようだ。
もっと苗字さんを知りたいと思うのは貪欲だろうか。