第5章 05
席を立ってさり気なく隣の席に座った。
時間が経っているので感じる訳がないのに、苗字さんの温もりを椅子から感じてなんとも言えない温かさが俺の心を包んだ。
「俺はもういいっスから、これで苗字さんの髪アレンジしてみて」
受け取ったシュシュを女子達に渡すと楽しそうとはしゃいで、私はいいよと遠慮がちな苗字さんを椅子に座らせた。
俺の席に座る苗字さんを見て、異様に嬉しくなった。
なんて事はない席の交換に意味もなく綻ぶ顔を、口元を隠す事でやり過ごした。
出来た!と満足気に言う女子達が可愛いと声を揃える。
本当に可愛い。
緩くハーフに纏められた髪を彩る白いシュシュが、一層苗字さんの可愛さを際立たせて目を奪われた。
初めて見る苗字さんの髪型に吸い寄せられるように手を伸ばした。
一房掬って撫でるとさらりと手の中を滑っていく。
まるで俺の心情のようだった。
掴みたいのに逃げる事しか出来ない、弱虫な俺の心。
「似合ってるっスよ」
「ほんと?ありがとー!」
そして何でもなく嬉しそうに笑う苗字さんにまた恋をした。
どうしてそんなに可愛いんだろう。
好きを隠してにっこりと笑ってみせた。