【おそ松さん】歪んでいるというには、あまりにも深く
第2章 ただ欲しいだけです
「ほら、やっぱり嘘つきだ」
揺らぐ視界の向こう側で冷たい声が響けば、私は現実へと引き戻される。
「今頭の中で思った人と一緒にいたいんでしょ?」
ゾクリと背中に悪寒が走るには充分すぎる近さだ。
すぐ耳元で見透かしたように、私の心の傷をグリグリと抉ってくる。
「違う!違う!違う!違う!」
狂ったように叫べば、冷たい手が腕を掴みベットに縫い付けた。
「違わないでしょ?【愛していた】なんて嘘でしょ?【愛してる】でしょ?」
変わらない冷たい表情を貼り付ける目の前の男は、逃げたい現実を意図も簡単に掬いとって私に投げつけてくる。
「本当に愛してるなら、男とホテルなんてこない。はやく私を無茶苦茶にしてよ!」
あぁ、私は正真正銘の馬鹿だ。
確かに私は嘘ばかり吐いている。
今この状況だって、自分が創った嘘の塊でできた世界だ。
狂った紅い壁の色も、安っぽい音楽も、快楽へ突き落とす器具も、何もかも私の創り出した嘘。
「嘘つきは...嫌いだよ。そうでしょ?あやちゃん」
柔らかい声が頭に響いた。
グチャグチャに踏みつけられた心に、寄り添うように優しい優しい声がした。
そっと撫でられる頬に上を向けば、私は言葉を失った。どうして気づかなかったんだろう、どうして今の今まで知らないフリをしていたんだろう。
「トド...松く...?」
目の前の男は私の愛した人とそっくりで、悲しみに曇った瞳にはそれさえも映らなかったんだろう。
「...そうだよ?僕はトド松だよ?ねぇ?どうして、そんなに悲しい顔してるの?」
必死に手を伸ばして、そっと彼の頬に触れれば柔らかい感触が手の中に広がっていく。
「トド松く、トド松くん?」
「なぁに?あやちゃん?」
いつものトド松くんだ、優しい優しいトド松くんだ。
これは夢なのか、それともさっきまでの悪夢だったのかわからない。
「トド松くん」
彼に手を伸ばす、あぁ、そっか、今までのが悪夢で今が現実なんだ。
どうして気づけなかったんだろう。