【おそ松さん】歪んでいるというには、あまりにも深く
第2章 ただ欲しいだけです
チリチリと胸を焼く音がする。
どうして触れてくれないのか、何故私はここで縛られているのか、疑問が尽きることが無い。
抱いてもらいたいから頭を必死に動かすだなんて、滑稽だ。
それでも、私は必死に考える。鎖の音に思考を奪われないように、どうすれば、どうすればと...。
けれど、それは本当に思っている事を誤魔化す為だということに気づけば自分でもわらってしまいそうだ。
鎖のついた不自由な腕で顔の上半分を隠せば、視界が黒くなる。
【あやちゃん、大好きだよ。ずっとずっと大好き】
どうしてこんな時に思い出す?
忘れたい...。
彼を忘れたい...。
それ程までに私は彼を愛していたのだろう。こんな馬鹿な考えに頭を悩ませるほどに愛していたんだ。
私の想う彼は、今何処でスマホ画面をみているのだろう。どこで既読をスルーしているのだろう。
彼の持つ、桃色のスマホケースが頭に浮かぶ。
【ねぇ、みて?可愛いでしょ?あやちゃんも僕とお揃いにしよう?】
低すぎず高すぎない声
【僕の声好き?ふふっ、僕もあやちゃんの声、だーいすき】
甘えてくる仕草
【あやちゃんてさ、甘い匂いするよね?僕ね、この匂い好きなんだ。だからもう少し、ぎゅうってさせて?】
私を愛しそうに見つめる瞳
【ごめんごめん、起こしちゃった?いや、好きな子の寝顔見れるのって幸せだなって思ってたんだ。ふふっ、おはよう、あやちゃん】
鮮明に頭を駆け巡る。
今置かれている非現実な状況が、彼の好きな色に染まって思考を彼にすげ替えられる。
そんな事を考えたくはない、それでも考えるのはどうしてだろう。
「トド...松く...」
ポツリと零れる名前に、慌てて口をおさえる。
彼は私が要らなくなったんだ。
そうだ、私なんか要らなくなったんだ。
私がどんなに求めたって、もう彼が私に笑いかけてくれることなんてない。