【おそ松さん】歪んでいるというには、あまりにも深く
第1章 ただ好きなだけです
ヤケになって辺りを見回せば、薄暗い照明と安っぽい音楽が流れる部屋にいた。昼なのか夜なのかわからない、非現実でできた空間に今日会ったばかりの男女が2人。
全部真っ赤なその部屋には、黒くて怪しい器具だらけで、どういった趣味なんだと問われればけしてよろしい趣味ではない。
「ふーん、こういうのが好きなんだ、で?縛る方?縛られる方?どっち?」
赤いいやらしい色をしたベットの両サイドにある手枷をチャラチャラと鳴らしながら笑った。
「ねぇ?私ね、ずっとずっと攻められる側だった。だから攻めさせてほしいんだけど?」
上着をハンガーにかける後ろ姿にそう問えば、ゆっくりとこちらにやって来る。
「攻めさせて?お願いしてる時点でそれって攻める側として失格だと思うよ?」
冷たい目をしたその人は、私を乱暴にベットに押し倒した。そして、有無を言わない間に私の手首をベットの手枷で縛る。
「Sですか。じゃあどうぞ好きにして」
ふっと笑って彼の次の行動を待っていれば、蔑んだ瞳を私に向けた後で自分の鞄から煙草を取り出した。
カチりと音がしてふうっと煙を吸い込む彼は、とても威圧的で自分が圧倒的不利だと嫌でもわかる。
「ねぇ、縛りつけられたままとか趣味じゃないんだけど」
その一言にギシリと音をたてながら、その人は私の近くに座る。ほんのりといい匂いがするのは、柔軟剤かなにかだろうか、どちらにしてもこの空間には合わない。
「名前聴いてなかったよね?」
ふうっと煙を吐きながら、ぽつりと呟く。
普通この状態で聴くか、なんて思いながらも私は彼の質問に的確に答える。
「加山 あや」
必要最低限な言葉を並べると、じろりと蔑んだ瞳がまた私を見つめる。
「あやちゃん」
蔑んだ瞳とは裏腹の可愛い呼び方に、内心驚いた。
「ねぇ、あやちゃん。何を想って僕に付いてきたの?」
ラブホに入っている時点で、考える事は一つだと言うのに今さらな言葉。答えなど聴かなくてもわかっているだろうに、変な人だ。