【おそ松さん】歪んでいるというには、あまりにも深く
第1章 ただ好きなだけです
その人は優しい人でした。
どうしようもないクズの私に手を差し伸べてくれた優しい人。
寒い寒い都会の冬
つい今しがた届いたLINEの四文字を見た瞬間、寒いから極寒に変わった。
『別れよう』
突然、いや突然ではなく、予想はしていた。数ヶ月前から私の誘いを断り続けてきた彼氏。他に女ができたんだと馬鹿でもわかる行動と言動に、私は耳を塞いで、目を塞いでいた。
だから突然ではなく必然なのだとわかっているはずなのに、悔しくて溢れだす涙が化粧を溶かしていく。
寒い寒い星の見えない夜。ぼおっと明るいスマホ画面に長文を打つ、それがいくら無駄な行為だったとしても、既読がつかない事をわかっていたとしても指を動かした。返ってくるはずのない画面に、黒が混じった涙がポタリと落ちて流れていく。
「ははっ、寒いなぁ...」
うずくまる私に緑色のマフラーが風に靡いた。
「大丈夫ですか?」
柔らかい笑みを浮かべたその人は、私にそっと右手を差し出してニコリと笑う。
「平気、ただ、今しがたフラれただけだから」
差し出された腕を振りほどいて、私は野良猫のように誰も信用しない瞳でその人を睨みつけた。
男なんてみんな同じで、所詮は金か身体かそのどちらかを求めているだけだ。
『好き』だとか、『愛してる』だとかそんなの世迷言だ。皆が皆、狐か狸かどっちかわかりゃしない。
「貴方もアレらと同じなの?」
そこら辺でアルコールの匂いやタバコの匂いで、本能を隠して歩く男を指さして見ず知らずの人に言った。
頭のおかしい女と言われても構わない、むしろそう思ってくれた方がずっとずっといい。
「さあ、わからないけど、なら確かめてみる?」
への文字口が微かに歪んで、私はそれを見過ごさなかった。きっとコイツも狐か狸と同じだ。
「そうだね、確かめさせてよ」
私は彼の手をとって、ゆっくりと横を歩く。
「...手、冷たいね」
妙に冷たい手のひらが、外の寒気でそれよりも冷えた私の手を温める。
その温かさですら今は煩わしい。