【おそ松さん】歪んでいるというには、あまりにも深く
第2章 ただ欲しいだけです
頭の中で響く音が生々しい。
ピチャリ、クチュリと口内でなる音が脳に伝わっていく。
麻酔を投与された時に似た感覚だ。
針が刺さった数秒後にガクガクと身体が震え、感覚が麻痺していく。
少し傷んだ髪を撫でられれば、絡みつくように彼の指先をはばんで進行を阻止する。
あぁ、前はもっとシャンプーをする時に気を使っていたのに最近はそんな事なかったと思い出す。
ただガシガシと何かをかき消したくなるほどに頭を引っ掻き回していたような、そんな気がした。
ぼんやりと空中を漂っているような消失感と、口内で混ざる唾液が私を現実から遠ざけていく。
目を開けたままの私を貪る彼は、しっかりと目を閉じていた。
この一瞬を惜しんでいるかのように見えるのは気のせい?
舌を絡めれるとそれにぎこちなく答える目の前の人。
トド松くんとのキスじゃない事は明白な事実だと突きつけられる。だってトド松くんは、私が舌を絡めればなんの戸惑いもなく絡めてふっと笑うからだ。
それに比べて、なんて不器用なキスなんだろう?
なんて下手くそなキスをするの?
下手に掻き回すから溢れ出す唾液が、離された唇から糸を光らせる。ぽたりと切れる前に袖で拭ったその人は、私の唇も袖で拭いた。
何も言わず、ただ両手で柔らかく頬を包みこんで、じっと私を見つめる瞳。
冷たく蔑んでいたような目が今はどうしたことか...
とても綺麗な暖かい熱をもった瞳をしている。
その瞳で真っ直ぐに私を見つめて、身を焼かれてしまいそうだ。
やめて、やめてよと心のどこかで声がした。
そんな瞳で私を見つめないでと心が警笛を鳴らして、ドクドクと心臓が嫌に速く鳴っている。
トド松くんにだってそんな目で見られたことはない。